
吉田隼人 『忘却のための試論』レビュー
2018.11.08 // 本のレビュー
吉田隼人 『忘却のための試論』
馴染みのない現代短歌集。まともに読んだのは初めてでした。
少し身構えて読み始めましたがいいですね!!
笑ってしまうような表現もあれば、切ない余韻を残すものもあり作風の幅も広い。
短い歌の中に、時間と感情がふくよかに詰め込まれている。
夢のような景色、死に対する鋭利な感覚。
死んでから訃報がとどくまでの間ぼくのなかではきみが死ねない
死者たちの年齢を追ひこしてゆく夏のにげみづ 誕生日おめでとう
この二つは死に関する歌の中でも特に好きなふたつです。
時間が、無情に的確に表現されていてすごい…
簡潔な一文のなかに、ポッと情景が浮かぶ。
実際の本は大きな流れを持って文が並んでいるので、作者の方の人柄も何となく想像できて親近感が湧いてきます。
2011年以前のものは、幻想的で淡いイメージのものも多く、憂いを帯びていて好きです。
この夏の慈雨ふりそそげラッセンの絵を売りつけるおねいさんにも
こんな感じでフフッとなるものもあって楽しいです。
表紙はなんと長岡先生。
帯はいい感じに天使様の下半身を隠していて、いい仕事をしています。
装丁も中身も、美しい本でした。