人に殺されかけた話
2018.11.02 // 創作
おとうさん
今となってはどんな理由で怒られたのか覚えていない。
でも、同じことをしても姉は叱られず、私だけが折檻を受けることは多かった。
だから、その時も大した理由じゃなかったんだろう。
夜、豆電球のオレンジの灯りの下で頭を殴られる。
こめかみが熱くなり、頭がチカチカした。
蹴られたりもした。すねや背中が痛んだが、頭の強烈な衝撃でそればかりに支配された。
頭部への別の痛みが加わる。
髪をぐいと引っ張りあげられ、振り回される。
脳が揺れる。赤い痛みとしか言い表せない。
泣いて、悲鳴をあげる私に怒鳴りつけるおとうさん。
隣の部屋で寝ているおかあさんは気づいていた。
でも、たすけにきてくれなかった。
そのまま気絶していて、起きても誰かが介抱してくれた様子はなかった。
記憶はそこで終わり。
私には好きな人がいる。
よくケンカをする。
いつも口ゲンカだけだったけどその日は違った。
彼の手が私の首に両手をかけた。
指がどんどん食い込んでいくのがわかる。
親指で気道を塞がれるが、動脈まで指の力が届いていない。
苦しい。痛い。
涙が溢れてきて、顔が充血していくのを感じる。
涙で歪む視界の中、彼の目は私に怯えていた。
汚らしい私の断末魔が聞こえ始めたところで手が離された。
首には痛みが残り、顎まで響く。
反射的に息を吸い咳き込む。
後頭部がズキズキする。
顔をあげて見えた彼の顔は、無表情だった。