「血はふきとったんだよ〜」

2018.10.19 // 創作

私の母は世間知らずでよくネズミ講に引っかかっていた。
いちばん古い記憶は保育園にいたころ。
その時は補整下着の教室みたいなのに参加していた。
私はついてくとお菓子やケーキがもらえて嬉しかった。
同級生と、そのお母さん数人もこの回に参加していた。
販売員のお姉さんも優しくて好きだったので、毎回遊びに行った。
お姉さんのこと、桃ちゃん、って呼ぶほど親しかった。
教室はほとんどお姉さんの自宅で開催していた。

ある時、あまり入ったことのない奥の部屋でお姉さんと二人きりになった。
その部屋はカーテンが閉じられていて、
いつも教室を開くリビングより薄暗かった。
ソファーに二人で座っていると、お姉さんがぽつりと優しい口調でつぶやいた。
「お姉ちゃんね、ここで人を殺したの。包丁で。」
「そうなの、でもぜんぜん血がついてないよー?」
「血はふきとったんだよ〜」
「そうなんだー」
普段と変わらない穏やかな様子だった。
私も気にすることなく、人にも話さずその日は帰った。

その後も何回か補整下着の教室は開かれ、その度に変わらず遊びに行った。
お姉さんに変わったところはなかった。
そのうち、母が飽きたのか
いつの間にか教室には行かなくなった。
あの部屋に入ったのはあれ1回きりだった。

この話を人に聞かせたのはここが初めて。
なんとなく、人に馬鹿にされそうだと思ったから。
あれは夢だったのかもしれない。
そもそもそんなお姉さんがいたのかな。
最近になって母にその頃の話を聞いてみた。
「ああ、桃ちゃんね。下着のだよね。しばらく会ってないけど、元気してるかな。」
私の夢じゃなかったんだ。

あの時、どうしてお姉さんは私にそんな話をしたんだろうね。
ねえ、桃ちゃん。


甚だ夜に近影

“可愛いからホラーまで”

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